イライラ、動悸、不眠、めまい、のぼせ、胃腸の不調――自律神経のバランスが乱れると、実にさまざまな症状が現れます。検査をしても「異常なし」と言われるのに体調が優れない、そんな経験がある方もいるのではないでしょうか。漢方では「気」の流れを整えることで心身のバランスを回復させるというアプローチをとります。この記事では、自律神経の不調に用いられることの多い漢方と、日常で取り入れやすいセルフケアについて詳しくご紹介します。
自律神経の乱れとは
交感神経と副交感神経のバランス
自律神経は、活動時にはたらく「交感神経」と、リラックス時にはたらく「副交感神経」の2つで構成されています。この2つが状況に応じてバランスよく切り替わることで、心拍・血圧・消化・体温調節などが正常に行われています。ストレスや不規則な生活が続くとこのバランスが崩れ、さまざまな不調が現れやすくなります。
自律神経の乱れで現れやすい症状
自律神経のバランスが乱れると、以下のような症状が出やすくなります。
- イライラ・怒りっぽさ
- 動悸・息苦しさ
- 不眠・寝つきの悪さ
- めまい・立ちくらみ
- のぼせ・冷え
- 胃腸の不調(食欲不振・下痢・便秘)
- 頭痛・肩こり
これらの症状が複数重なって現れるのが特徴で、「どこが悪いのかわからない」と感じる方が少なくありません。

自律神経の不調に用いられることの多い漢方
加味逍遙散(かみしょうようさん)
ストレスからくるイライラ・不安・のぼせに用いられることの多い漢方です。自律神経の不調に対する処方の中でも特に広く使われているとされています。気分の波が大きく、肩こりやのぼせ・冷えが同時に気になる方に向いているとされています。ホルモンバランスの変化に伴う不調に対して処方されるケースも多く、更年期の方にも用いられます。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
喉のつかえ感や息苦しさ、漠然とした不安感がある方に用いられます。漢方医学では「梅核気(ばいかくき)」と呼ばれる喉の閉塞感は、「気」の滞りが原因と考えられています。比較的早い段階で変化を感じやすい漢方の一つとされており、数週間以内に効果が出ることが多いとされています。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
動悸・不眠・神経過敏に用いられる漢方です。精神的な緊張が強く、些細なことにビクッとしやすい方に向いているとされています。不安感と動悸が同時に気になるタイプの方に処方されることが多く、体力が中程度以上の方が対象となります。
抑肝散(よくかんさん)
怒りっぽさ・神経の高ぶりが気になる方に用いられます。「肝」の高ぶりを鎮めるはたらきが期待されており、イライラが強いタイプの方に向いています。子どもの夜泣きにも使われることがある穏やかな処方です。臨床研究では、不安の軽減やQOLの改善が報告されています。
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
不安感が強く、寝つきが悪い方に用いられる漢方です。体力があまりない方に向いているとされており、柴胡加竜骨牡蛎湯が合わない(体力が中程度以下の)方の選択肢として挙がることがあります。神経が繊細で疲れやすい方にも処方されるケースがあります。
- 最もつらい症状を軸に処方を選ぶのが一般的です
- 体力の程度(虚実)によって合う処方が異なります
- 2〜3ヶ月は継続して様子を見ることが推奨されています
- 体質に合わない場合は処方の見直しが必要です。薬剤師や漢方専門医に相談しましょう
漢方と併せて取り入れたいセルフケア
深呼吸を習慣にする
4秒吸って、7秒止めて、8秒吐く「4-7-8呼吸法」は副交感神経を活性化するとされています。就寝前や緊張を感じたときに行うと、心拍が落ち着きやすくなります。1日に3〜5回、意識的に深呼吸の時間をつくるのがおすすめです。
朝日を浴びる
起床後に太陽の光を浴びると、セロトニンの分泌が促され、体内時計がリセットされるとされています。セロトニンは夜になるとメラトニン(睡眠ホルモン)に変換されるため、朝の日光浴は夜の睡眠の質にもつながります。窓越しでもよいので、朝15分程度は光を浴びましょう。
デジタルデトックス
就寝1時間前にスマホやPCをオフにすると、副交感神経の働きが良くなりやすいです。ブルーライトはメラトニンの分泌を抑制するとされており、寝つきの悪さの原因になることがあります。読書やストレッチなど、画面を見ない過ごし方に切り替えてみてください。
ぬるめの入浴
38〜40℃のぬるめのお湯に15分ほど浸かると、副交感神経が優位になりやすいです。熱すぎるお湯は交感神経を刺激するため逆効果になることがあります。入浴後はそのまま1時間以内に就寝するのが理想的です。
適度な運動
ウォーキングやヨガ、ストレッチなどの穏やかな運動は、自律神経のバランスを整えるのに有効とされています。激しい運動よりも、心地よいと感じる程度の運動を継続するのがポイントです。

漢方医学から見る自律神経の不調
西洋医学では「自律神経失調症」という言葉が使われますが、漢方医学ではこれを主に「気」の乱れとして捉えます。具体的には以下のような状態として分類されます。
気滞(きたい)
「気」の流れが滞っている状態です。イライラ、喉のつかえ感、胸の苦しさなどの症状が出やすく、半夏厚朴湯や加味逍遙散が用いられることがあります。
気逆(きぎゃく)
「気」が上に突き上がる状態です。のぼせ、動悸、頭痛、めまいなどの症状が出やすく、柴胡加竜骨牡蛎湯や桂枝加竜骨牡蛎湯が選択されることがあります。
気虚(ききょ)
「気」そのものが不足している状態です。疲れやすい、やる気が出ない、風邪をひきやすいといった症状に対して、補中益気湯などが用いられます。
自律神経の不調に漢方が選ばれる理由
自律神経の不調は検査で異常が見つからないケースが多く、西洋医学だけでは対応しきれないことがあります。漢方は「未病」の段階からアプローチできるのが強みで、「病気とまでは言えないけれど体調が優れない」という状態にも対応しやすいとされています。
また、自律神経の不調は複数の症状が同時に現れることが多いですが、漢方は一つの処方で複数の症状に対応できるケースがあります。たとえば加味逍遙散はイライラ・不眠・肩こり・のぼせといった複数の症状に用いられることがあります。症状ごとに薬を増やすのではなく、体質全体を整えるアプローチは、薬の数を減らしたい方にも向いています。
- 自律神経の不調が長引く場合は、他の疾患が隠れている可能性があります。医療機関を受診しましょう
- 漢方にも副作用はあります。甘草を含む処方の長期服用では偽アルドステロン症に注意が必要です
- うつ症状やパニック発作がある場合は、心療内科や精神科の受診も検討してください

まとめ
自律神経の乱れは多彩な症状を引き起こしますが、漢方は「気」の流れを整えることで心身のバランスを回復させるサポートをしてくれます。加味逍遙散、半夏厚朴湯、柴胡加竜骨牡蛎湯など、症状や体質に合わせた処方を選ぶことが大切です。漢方と併せて、深呼吸や朝日を浴びる習慣、デジタルデトックスなどのセルフケアも取り入れて、穏やかに体調を整えていきましょう。気になる症状がある方は、薬剤師や漢方専門医に相談してみてください。自律神経の不調は「気のせい」ではなく、体からのサインです。漢方は「未病」の段階からアプローチできる強みがありますので、不調を感じたら早めに対処することが大切です。
参考:日本東洋医学会
参考:厚生労働省|こころの耳
参考:日本漢方生薬製剤協会

