毎日の介護で体がクタクタ、気持ちにも余裕がなくなってきた――そんな悩みを抱えている方はとても多いのではないでしょうか。介護は体力だけでなく精神面にも大きな負担がかかるものです。自分のことは後回しにしがちですが、介護する側の健康が保たれてこそ、介護は続けていけるものです。
漢方の考え方では、心身の消耗を「気虚(ききょ)」や「気滞(きたい)」といった状態として捉え、穏やかに体のバランスを整えていくことを目指します。この記事では、介護疲れが気になる方に向けて、よく用いられる漢方やセルフケアの方法をまとめました。

介護疲れが気になる方に用いられる漢方の紹介
介護による心身の消耗に対して、漢方はさまざまな角度からアプローチします。疲労のタイプや体質に合わせた処方をご紹介しますが、実際の服用にあたっては必ず医師や薬剤師に相談してください。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
心身の疲労が蓄積して、気力も体力も落ちている方によく用いられる代表的な処方です。漢方では「気」を補い、消化機能を立て直すことで体全体の活力をサポートすると考えられています。疲れやすい・食欲がない・だるさが抜けないといった状態が続いている方に向いているとされています。
加味逍遙散(かみしょうようさん)
介護のストレスでイライラしたり、不安が強くなったり、気分の波が激しくなっている方に用いられることがあります。「肝」の気のめぐりを整えることで、精神的な緊張をほぐすとされています。肩こりやのぼせを伴う方にも選ばれやすい処方です。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
疲れ切って食欲も落ち、顔色も悪くなっているような方に用いられます。「気」と「血」の両方を補う処方で、全身の栄養状態をサポートするとされています。長期間の介護で体の消耗が大きい方に向いているとされています。
酸棗仁湯(さんそうにんとう)
介護の疲れやストレスで夜眠れない、眠りが浅いという方に用いられることがあります。穏やかに入眠をサポートするとされており、心身が疲れているのに頭が冴えて眠れないという状態に対して用いられるケースがあります。
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
長期にわたる疲労で気力が枯渇し、貧血傾向や呼吸器の弱さが見られる方に用いられることがあります。十全大補湯と似た構成ですが、こちらは咳や息切れ、不眠といった症状にも対応した処方とされています。
介護疲れといっても、体力が落ちているタイプ、精神的に追い詰められているタイプ、眠れなくなっているタイプなど、状態はさまざまです。「どのタイプの疲れが一番つらいか」を整理してから薬剤師や医師に伝えると、より自分に合った処方を提案してもらいやすくなります。
介護疲れを漢方の視点で見ると
漢方では、介護疲れの背景にある体の状態を以下のように捉えることがあります。
「気虚」――エネルギー切れの状態
「気」は生命活動の原動力とされるものです。長期間の介護で休息が十分に取れず、「気」が消耗し続けると、だるさ・食欲不振・疲れやすさといった状態が現れるとされています。補中益気湯や十全大補湯は、この「気虚」の状態に対して用いられます。
「気滞」――ストレスによるめぐりの停滞
介護にともなう精神的なストレスは、「気」のめぐりを停滞させると考えられています。イライラ、不安、胸のつかえ感、肩こりなどが現れやすくなります。加味逍遙散は、この「気滞」の状態に対してよく用いられます。
「血虚」――栄養不足の状態
介護に追われて食事が不規則になると、「血」の不足(血虚)が起こりやすくなるとされています。顔色の悪さ、爪や髪のトラブル、めまいなどが現れることがあります。十全大補湯や人参養栄湯が用いられるケースがあります。

漢方と併せて取り入れたいセルフケア
漢方だけでなく、日常生活の中でできるセルフケアも組み合わせることで、心身の回復をサポートしやすくなります。
レスパイトケアを積極的に活用する
ショートステイやデイサービスなどの介護サービスを利用して、定期的に休息の時間を確保することがとても大切です。「自分が休んでいいのか」と罪悪感を感じる方もいらっしゃいますが、休息を取ることは長く介護を続けていくための必要な投資です。
自分だけの時間をつくる
趣味の時間、友人との交流、一人で散歩をする時間など、介護以外の時間を意識的に確保しましょう。短い時間でも構いません。自分のための時間を持つことで、気持ちのリフレッシュにつながります。
相談窓口を知っておく
厚生労働省の介護・高齢者福祉ページでは、地域包括支援センターなどの相談窓口に関する情報が掲載されています。一人で抱え込まず、専門家に相談するだけでも気持ちが楽になることがあります。
栄養バランスのよい食事を心がける
介護に追われると食事がおろそかになりがちですが、体を支えるためには栄養バランスの取れた食事が欠かせません。たんぱく質やビタミンB群を意識して摂ると、疲労回復のサポートになるとされています。簡単に用意できるものでも構わないので、まずは3食しっかり食べることから始めてみてください。
介護疲れがひどくなると、うつ症状や体の痛みなど深刻な状態につながることがあります。「もう限界かもしれない」と感じたら、無理をせず医療機関を受診してください。漢方は穏やかなサポートとして活用するものであり、深刻な症状に対する代替手段ではありません。
介護者が利用できる支援制度
漢方によるセルフケアと並行して、公的な支援制度の活用も重要です。介護疲れを軽減するために利用できる制度をいくつかご紹介します。
介護休業制度
育児・介護休業法に基づき、要介護状態の家族を介護するために、通算93日まで休業を取得できる制度です。対象家族1人につき3回まで分割取得が可能です。
地域包括支援センター
各市区町村に設置されている相談窓口で、介護に関するあらゆる相談に無料で対応してもらえます。ケアプランの作成支援や介護サービスの紹介も行っています。お住まいの地域のセンターを調べておくと安心です。
介護者の会・家族会
同じ立場の方と交流できる場として、各地域に介護者の会や家族会があります。悩みを共有するだけでも精神的な負担が軽くなることがあります。
漢方を選ぶときに知っておきたいこと
体質に合った処方を選ぶ
漢方は「同じ介護疲れ」でも、体質によって適した処方が異なります。体力の有無、冷えの傾向、胃腸の状態などを総合的に判断して処方が決まります。
市販品でも始められる
補中益気湯や加味逍遙散はドラッグストアでも購入できます。まずは市販品から試してみて、より本格的な対応を希望する場合は日本東洋医学会のサイトで漢方専門医を探すこともできます。
2〜3か月を目安に続ける
漢方は体質に穏やかに働きかけるため、一般的には2〜3か月程度の継続が目安とされています。服用中に体調の変化を感じたら、早めに医師や薬剤師に相談してください。

まとめ
介護は体力的にも精神的にも大きな負担がかかるものです。漢方は、「気虚」「気滞」「血虚」といった体の状態に合わせて、穏やかに心身のバランスを整えるサポートをしてくれます。
補中益気湯や加味逍遙散をはじめとする漢方は、それぞれ体質や症状のタイプによって向き不向きがあります。自分に合った処方を見つけるために、薬剤師や漢方専門医に相談することをおすすめします。漢方とセルフケアを上手に組み合わせて、介護を続けていける体と心を整えましょう。
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参考:日本東洋医学会
参考:ツムラ|補中益気湯
介護疲れに気づくためのセルフチェック
介護疲れは少しずつ蓄積するため、自分では気づきにくいことがあります。以下の項目に心当たりがないか確認してみましょう。
- 朝起きても疲れが取れない日が続いている
- 食欲がなくなった、または食べすぎてしまう
- 以前は楽しかったことに興味が持てなくなった
- 些細なことでイライラしたり涙が出たりする
- 肩こりや頭痛、胃の不調が続いている
- 「自分がやらなければ」という思いが強く、他人に頼れない
複数当てはまる場合は、介護疲れが蓄積しているサインかもしれません。早めに専門家に相談し、必要に応じて漢方を含めた体のケアを検討してみてください。一人で抱え込まないことが、介護を長く続けていくための鍵です。


