更年期を迎えると、イライラが止まらない、急にカーッと顔がほてる、夜なかなか眠れないなど、さまざまな不調に悩まされることがあります。これらの症状は日によってコロコロ変わることも多く、「何科を受診すればいいのかわからない」と困っている方も少なくありません。
そんな更年期の不定愁訴にアプローチする漢方薬として、最もよく処方されているのが加味逍遙散(かみしょうようさん)です。「逍遙(しょうよう)」とは「気ままにぶらぶら歩く」という意味で、気持ちをゆったりとリラックスさせるという処方の特徴を表しています。
この記事では、加味逍遙散の構成生薬や働き、向いている体質、副作用、更年期以外での活用法まで詳しく解説します。

加味逍遙散とは?漢方的な考え方と処方の位置づけ
加味逍遙散は、漢方医学で「肝気鬱結(かんきうっけつ)」に「血虚(けっきょ)」と「熱」が加わった状態に適した処方とされています。ストレスや感情の抑圧によって気の巡りが滞り、それが熱に変わって、イライラ・のぼせ・ほてりなどの症状を引き起こすと考えられています。
医療用漢方薬としてはツムラ24番として知られ、更年期障害の漢方治療で最も多く処方される薬のひとつです。婦人科だけでなく、内科や心療内科でも広く使われています。
体力が中程度からやや虚弱で、症状が日によって変わりやすい方に適しています。のぼせやほてりがある一方で足が冷える、イライラしたかと思うと急に不安になるなど、症状が多彩で一定しないのが特徴的な使用目安です。
加味逍遙散を構成する10種類の生薬
加味逍遙散は、以下の10種類の生薬で構成されています。ベースとなる「逍遙散」に牡丹皮と山梔子を加えた(「加味」した)処方です。
気の巡りを改善する生薬:柴胡(サイコ)・薄荷(ハッカ)
柴胡は「肝」の気の滞りを解消する中心的な生薬です。薄荷は気分をスッキリさせ、頭部のほてりを和らげる働きがあるとされています。
血を補い、体を養う生薬:当帰(トウキ)・芍薬(シャクヤク)
当帰と芍薬は「血」を補う代表的な生薬です。血が不足すると、めまいや動悸、肌の乾燥などが起きやすくなります。この2つが血を補いながら、筋肉の緊張を緩める働きもあります。
熱を冷ます生薬:牡丹皮(ボタンピ)・山梔子(サンシシ)
この2つが「加味」の部分です。牡丹皮は血中の熱を冷まし、山梔子は体の上部にこもった熱を発散させます。のぼせやホットフラッシュの症状に対応するために加えられた生薬です。
胃腸を整える生薬:白朮(ビャクジュツ)・茯苓(ブクリョウ)・甘草(カンゾウ)・生姜(ショウキョウ)
胃腸を保護し、余分な水分を排出して体のバランスを整えます。漢方では胃腸の働きが弱いと薬の効きも悪くなるため、こうした補助的な生薬が重要な役割を果たします。
加味逍遙散が用いられる主な症状
イライラ・情緒不安定
感情のコントロールが難しくなり、些細なことで怒りっぽくなったり、涙もろくなったりする症状に用いられます。漢方的には「肝」が感情のコントロールに関わっているとされ、加味逍遙散はその「肝」の気の巡りを改善する処方です。
のぼせ・ホットフラッシュ
急に顔や上半身がカーッと熱くなるホットフラッシュは、更年期の代表的な症状です。牡丹皮と山梔子の清熱作用により、上半身にこもった熱を冷ましてのぼせやほてりを和らげることが期待されます。ホルモン補充療法が使えない方の選択肢としても注目されています。
不眠・寝つきの悪さ
更年期の不眠は、神経の興奮が原因となることが多いです。加味逍遙散は気持ちを落ち着かせ、自然な眠りを促す働きがあるとされています。睡眠薬のような即効性はありませんが、依存性がない点がメリットです。

肩こり・頭痛
気と血の巡りが改善されることで、更年期に悪化しやすい肩こりや頭痛の緩和にもつながる場合があります。特に、ストレスや精神的な緊張が原因の肩こり・頭痛に適しているとされています。
PMS(月経前症候群)・月経不順
加味逍遙散は更年期だけでなく、PMSや月経不順にも広く用いられます。月経前のイライラ、胸の張り、気分の落ち込みなどに処方されることが多く、女性のライフステージを通じて活用されている処方です。
加味逍遙散の正しい飲み方
基本的な服用方法
食前(食事の30分前)または食間(食後約2時間)に白湯で服用するのが基本です。顆粒タイプの場合は、お湯に溶かして飲むと吸収が良いとされています。漢方薬独特の味が苦手な方は、少量のはちみつを加えて飲む方法もありますが、糖分が気になる方は白湯だけで試してみてください。
効果を実感するまでの期間
イライラやのぼせなどの急性症状であれば、比較的早い段階で変化を感じる方もいます。体質改善を目的とする場合は、2週間から1か月程度の継続が目安です。3か月以上飲んでも変化がない場合は、処方の見直しを医師に相談しましょう。
副作用と注意点
加味逍遙散は比較的副作用が少ないとされていますが、以下の点には注意が必要です。特に長期間の服用や、他の漢方薬と併用する場合は定期的な検査を受けましょう。
甘草を含むため、長期服用で偽アルドステロン症(むくみ、血圧上昇、低カリウム血症)が起こる可能性があります。また、山梔子を含む漢方薬の長期服用では、まれに腸間膜静脈硬化症が報告されています。原因不明の腹痛や下痢が続く場合は、速やかに医療機関を受診してください。
その他、まれに間質性肺炎、肝機能障害、ミオパチーなどの重篤な副作用が報告されています。体調に異変を感じたら服用を中止し、医師に相談しましょう。
加味逍遙散と似た処方との使い分け
更年期の漢方治療では、体質に応じた処方の使い分けが重要です。婦人科の三大漢方薬と呼ばれる加味逍遙散・当帰芍薬散・桂枝茯苓丸の違いを知っておくと、医師との相談がスムーズになります。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)との違い
当帰芍薬散は冷え性でむくみやすい方に向いた処方です。加味逍遙散がイライラ・のぼせタイプに適しているのに対し、当帰芍薬散はおとなしくて冷えやすいタイプに適しています。貧血気味で顔色が悪く、足腰が冷えるという方には当帰芍薬散が選ばれることが多いです。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)との違い
桂枝茯苓丸は体力が比較的ある方の血行不良(瘀血)に用いられる処方です。のぼせはあるが足が冷えるという点は共通していますが、桂枝茯苓丸はよりしっかりした体格の方に適しています。シミやくすみが目立つ、生理の血が暗赤色で塊が多いといった瘀血の症状が目立つ場合に選ばれます。
よくある質問
Q. 加味逍遙散は男性でも飲めますか?
男性にも処方されます。ストレスによるイライラや不眠、自律神経の乱れなどに対して、性別を問わず用いられています。ただし、体質に合っているかどうかの判断は医師に委ねましょう。
Q. 加味逍遙散とホルモン補充療法(HRT)は併用できますか?
多くの場合は併用可能とされていますが、個々の状態によって異なります。必ず担当医に相談してから併用するようにしてください。
Q. 加味逍遙散を飲み始めてから眠くなりますが大丈夫ですか?
気持ちが落ち着くことで、今まで緊張で眠れなかった分、眠気を感じることがあります。運転前などは注意が必要ですが、漢方の作用として自然な反応と考えられます。気になる場合は医師に相談してください。
Q. 市販と処方薬で効果に違いはありますか?
有効成分は同じですが、医療用は満量処方(フルドース)であるのに対し、市販薬は成分量が2/3から1/2程度のことが多いです。効果が物足りない場合は、漢方外来で保険適用の処方を受けることを検討してみてください。
Q. 加味逍遙散は長期間飲んでも大丈夫ですか?
体質に合っていれば比較的長期の服用が可能ですが、山梔子による腸間膜静脈硬化症のリスクがあるため、5年以上の長期服用では定期的な腹部の検査を受けることが推奨されています。医師と相談しながら継続してください。
Q. 加味逍遙散と逍遙散の違いは何ですか?
逍遙散は加味逍遙散のベースとなった処方で、牡丹皮と山梔子が含まれていません。のぼせやほてりの症状が強い場合は、清熱作用のある牡丹皮と山梔子が加わった加味逍遙散が選ばれます。のぼせがなくイライラや気分の落ち込みが中心の場合は、逍遙散で十分なこともあります。
Q. 加味逍遙散を飲み始めたら便がゆるくなりました。続けて大丈夫ですか?
山梔子には緩やかな瀉下作用があるため、飲み始めに便がゆるくなることがあります。軽度であれば数日で落ち着くこともありますが、ひどい下痢が続く場合は体質に合っていない可能性があります。医師に相談して処方の変更を検討してください。

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参考情報: クラシエ漢方セラピー 加味逍遙散
参考情報: EPARKくすりの窓口 加味逍遥散の効果・効能
加味逍遙散を試す前に知っておきたいこと
加味逍遙散は更年期の漢方治療で最も実績のある処方のひとつですが、すべての方に合うわけではありません。自分の体質に合っているかどうかは、漢方に詳しい医師の診察を受けて判断してもらうことが大切です。漢方外来のある医療機関であれば、保険適用で処方を受けることもできます。
日本東洋医学会の専門医検索で、漢方に詳しい医師を探すことができますので、お住まいの地域で漢方外来を行っている医療機関を調べてみてください。
参考情報: 精神科医が解説する加味逍遙散


