急な下痢で困った経験は誰にでもあるはず。でも「いつもお腹がゆるい」「緊張するとすぐお腹を壊す」という慢性的な悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
漢方医学では下痢を「脾胃(ひい)の虚弱」と捉えることが多く、消化器系全体の機能を立て直すアプローチをとります。以下の記事もあわせて参考にしてください。

これが西洋薬の「止める」治療との大きな違いです。


漢方で見る下痢の4タイプ
寒湿タイプ(冷え下痢)
冷たいものを食べたり体が冷えたりすると下痢になるタイプです。お腹を触ると冷たく、水のような下痢が特徴です。冬場やクーラーの効いた部屋で悪化しやすい傾向があります。
脾虚タイプ(虚弱下痢)
体力がなく消化力が弱いため、食べたものをうまく消化吸収できずに下痢になるタイプです。食後にお腹が張る、食欲はあるのに食べると下すといった特徴があります。
肝脾不和タイプ(ストレス下痢)
ストレスや緊張で「肝」の気が「脾」に影響し、下痢になるタイプです。通勤途中にお腹が痛くなる、大事な場面で下痢になるなど、過敏性腸症候群(IBS)に多いパターンです。
湿熱タイプ(急性下痢)
食あたりや細菌性の下痢、暴飲暴食後の下痢がこのタイプです。腹痛を伴い、臭いの強い下痢が特徴で、体内に「湿熱」がこもっている状態です。
下痢におすすめの漢方薬5選
急性か慢性か、冷えがあるかないか、ストレスが関係しているかで最適な処方が変わります。
1. 人参湯(にんじんとう)
冷えによる下痢の代表的処方です。お腹が冷えて水っぽい下痢が出る方に最適です。人参と乾姜で胃腸を温め、消化機能を高めます。体力がない方、手足が冷える方に向いています。
2. 真武湯(しんぶとう)
新陳代謝が低下し、全身の冷えが強い方の下痢に効果的です。めまいやふらつきを伴う下痢にも使われます。人参湯よりもさらに体力が低下している方向けの処方です。
3. 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
みぞおちがつかえて、下痢と嘔吐を繰り返すような症状に効果的です。急性胃腸炎やストレス性の胃腸障害にも幅広く使われます。お腹がゴロゴロ鳴る方にも向いています。


4. 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
お腹が痛くて下痢をするタイプに適しています。腸の過剰な動きを鎮め、腹痛と下痢を同時に改善します。過敏性腸症候群の下痢型に処方されることも多い漢方薬です。
5. 啓脾湯(けいひとう)
消化吸収力が低下している方の慢性的な下痢に適しています。「脾」を補い、軟便が続く、食欲がない、疲れやすいといった症状を改善します。小児の慢性下痢にも使われる穏やかな処方です。
下痢のときの食事と養生法
冷たい飲食物、脂っこい食べ物、刺激物(香辛料・カフェイン・アルコール)は下痢を悪化させます。
漢方では「脾は温を好み、冷を嫌う」と言います。常温以上の飲食を心がけるだけでも、お腹の調子は変わってきます。お腹を冷やさないために腹巻きも有効です。
おすすめの食材は、おかゆ、煮込みうどん、蒸した山芋、りんごのすりおろしなど、消化に優しいものです。漢方的には「気」を補う食材として、なつめ、はと麦、蓮の実なども良いとされています。ストレス性の下痢については以下の記事も参考になります。



下痢が続くときの食事について、ツムラの漢方お悩み相談(www.tsumura.co.jp・サイト終了)にも詳しい情報があります。
また、お腹を冷やさないよう腹巻きを活用したり、クラシエ漢方セラピーの体質チェックで自分のタイプを確認してみるのも良いでしょう。


急な下痢に用いられる五苓散という選択肢
紹介した5つに加えて、水っぽい下痢によく用いられる処方として五苓散(ごれいさん)も覚えておきたい漢方薬です。五苓散は体内の水分の偏り(漢方でいう「水滞・水毒」)を整える方向で働くとされ、口の渇きや尿量の減少をともなう水様便のときに用いられます。
五苓散の特徴は、単に水分を追い出すだけでなく、余分な水があれば排出を促し、足りなければ保持するという調整的な働きが期待される点です。そのため、二日酔いのむかつきや、天候の変化で頭が重いときなど、水分バランスの乱れが関わる不調にも幅広く用いられてきました。急な下痢のときに整腸剤と一緒に使われることもあります。
暴飲暴食や冷えによる一時的な下痢は、五苓散や半夏瀉心湯など「今の状態を整える」処方が候補です。一方、いつもお腹がゆるい、疲れると下すといった慢性タイプは、人参湯や啓脾湯のように「胃腸そのものを底上げする」処方をじっくり続ける考え方になります。


下痢が続くときのセルフチェックと受診の目安
市販の漢方薬でセルフケアをする前に、次のような状態がないかを確認しておくと安心です。高い熱をともなう、便に血がまじる、激しい腹痛が続く、半日以上ぐったりして水分もとれない——こうしたときは感染性の腸炎など別の原因が隠れていることがあり、早めに医療機関を受診する目安とされています。とくに小さなお子さんや高齢の方は、脱水が進みやすいため注意が必要です。
下痢のときの水分補給は、一気に飲むより少量ずつこまめにとるのがコツです。常温の水や麦茶、経口補水液などが飲みやすく、冷たすぎる飲み物や糖分の多いジュースはお腹に負担をかけることがあります。漢方では「脾は温を好み冷を嫌う」と考えるため、飲食物はできるだけ常温以上を選ぶと胃腸への負担を減らしやすくなります。
食あたりが疑われるときは、下痢を無理に止めると原因物質が体内にとどまることがあります。市販の下痢止めと漢方薬を併用する際は、症状や原因に応じて薬剤師に相談しましょう。
下痢のタイプを見分けるうえでは、便の状態も手がかりになります。水のようにシャバシャバした便は冷えや水分の偏り、においが強くスッキリしない便は熱がこもった状態、ストレスがかかった場面でお腹が痛くなって下すなら気の巡りの乱れ、というように、同じ下痢でも背景が異なります。市販の漢方薬を選ぶときは、便の様子と「どんなときに悪化するか」をあわせて店頭で伝えると、自分に近い処方を案内してもらいやすくなります。
回復期には、おかゆや煮込みうどん、すりおろしたりんごなど消化にやさしいものから少しずつ戻していきます。漢方的に気を補うとされる、なつめ・はと麦・山芋なども、日々の食養生に取り入れやすい食材です。自分の体質を知りたい方は、漢方ビューの処方解説も参考になります。
よくある質問
Q. 急な下痢にも漢方は効きますか?
はい。五苓散や半夏瀉心湯は急性の下痢にも比較的早く効果が出ます。ただし、発熱や血便を伴う場合は感染症の可能性があるため医療機関を受診してください。
Q. 過敏性腸症候群(IBS)に漢方は有効?
漢方はIBSの治療に広く用いられています。桂枝加芍薬湯や半夏瀉心湯が代表的で、西洋医学の治療と併用することも可能です。
Q. 漢方薬はどのくらい続ければいい?
慢性的な下痢の体質改善には1〜3ヶ月程度の継続が目安です。改善が見られたら徐々に減量していきます。日本東洋医学会の専門医に相談すると、適切な期間を指導してもらえます。
Q. 下痢止めと漢方薬は併用できますか?
基本的に併用は可能ですが、漢方薬の中にも下痢を止める作用があるため、効き過ぎて便秘になることがあります。薬剤師に相談の上で使いましょう。
Q. 冷えると下痢をするのですが、漢方で体質から見直せますか?
お腹の冷えが関わるタイプには、人参湯や真武湯のように胃腸を温める方向の処方が用いられます。あわせて腹巻きや温かい飲食を心がけると、日常のセルフケアになります。感じ方には個人差があります。
Q. 旅行や出張のときだけお腹を壊します。どうすれば?
環境の変化や緊張が関わる下痢は、桂枝加芍薬湯や半夏瀉心湯などが候補になります。出発前から数日試しておき、自分に合うか確認しておくと安心して持ち歩けます。
Q. 下痢と便秘を繰り返すのですが漢方で対応できますか?
下痢と便秘を交互に繰り返す状態は、ストレスが関わる過敏性腸症候群でよくみられます。桂枝加芍薬湯などが用いられることがありますが、まずは消化器内科で相談するのがおすすめです。
Q. 慢性的な下痢の体質は、どのくらいの期間で変わりますか?
いつもお腹がゆるいタイプの養生は、1〜3ヶ月ほどじっくり続けて様子をみることが一般的です。短期間で判断せず、便の回数や形の変化を記録しながら続けると、合っているかどうかが見えやすくなります。感じ方には個人差があります。
Q. 下痢のあと、食事はいつ普通に戻していいですか?
お腹の痛みが落ち着き、水分がしっかりとれるようになってから、おかゆや煮込みうどんなど消化にやさしいものを少量ずつ試し、様子をみながら通常食へ戻していくのが目安です。脂っこいものや刺激物は最後に戻すと負担が少なくなります。
Q. お腹を温めると本当に違いますか?
漢方では「脾は温を好み冷を嫌う」と考えます。腹巻きやカイロでお腹まわりを温める、常温以上の飲食を選ぶといった工夫は、冷えが関わるタイプの日常ケアとして取り入れやすい方法です。感じ方には個人差があります。
Q. 整腸剤と漢方薬はどう使い分ければいいですか?
整腸剤は腸内環境をととのえる目的、漢方薬は体質の傾きに合わせて選ぶという違いがあります。水様便のときに整腸剤と五苓散を併用することもありますが、飲み合わせに迷うときは薬剤師に相談しましょう。


