「シャンプーのたびに排水口に溜まる髪の毛が気になる」「分け目が広がってきた」「髪にハリやコシがなくなった」――薄毛や抜け毛の悩みは、男女を問わず深刻なものです。育毛剤やAGA治療など外側からのケアに加えて、漢方薬で体の内側から環境を整えるアプローチも注目されています。
漢方医学には「髪は血の余り(けつのあまり)」という考え方があります。体全体に十分な血(栄養や潤い)が行き渡った後、その余った分が髪に届けられるという意味です。つまり、髪の状態は体全体の健康状態を映す鏡のようなもので、髪だけを単独でケアしても根本的な改善にはつながりにくいというのが漢方の基本的な考え方です。
さらに「髪は腎の華(じんのはな)」ともいわれ、漢方でいう「腎」の機能が髪の成長や美しさに深く関わっているとされています。加齢によって腎の力が衰えると白髪や抜け毛が増えるのは、この考え方に基づいています。

漢方医学が考える薄毛・抜け毛の原因タイプ
漢方では薄毛・抜け毛の原因をいくつかの体質タイプに分けて考えます。自分がどのタイプに近いかを知ることが、適切な漢方薬選びの出発点になります。
血虚(けっきょ)タイプ――血の不足による髪の栄養不足
血虚タイプは、体の栄養や潤いが不足して髪に十分な栄養が届かない状態です。顔色が蒼白い、爪が割れやすい、肌が乾燥する、立ちくらみがする、月経量が少ないといった症状を伴います。女性に多い薄毛の背景として見逃されがちなタイプです。
血虚の症状と養生法については以下の記事でも詳しく解説しています。

腎虚(じんきょ)タイプ――加齢に伴う髪の衰え
漢方でいう腎は生命エネルギーの根本を司る臓器です。加齢とともに腎の力が衰えると、髪が細くなる、白髪が増える、抜け毛が進行するといった変化が現れます。足腰のだるさ、頻尿、耳鳴りなどを伴う方に多い傾向があります。
気滞血瘀(きたいけつお)タイプ――ストレスによる頭皮の血行不良
ストレスや緊張が長期間続くと気の巡りが滞り、それに伴って血行も悪化します。頭皮への血流が低下すると毛根への栄養供給が不十分になり、抜け毛や薄毛につながるとされています。肩こり、頭痛、イライラ、不眠などを伴うケースが多い傾向があります。
薄毛・抜け毛が気になる方に用いられる漢方薬
漢方薬による薄毛ケアは体質改善を通じたアプローチのため、効果を実感するまでに時間がかかります。AGA(男性型脱毛症)の場合は、漢方薬だけでなく皮膚科での専門治療も並行して検討することをおすすめします。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)――気と血の両方を補う
十全大補湯は、気と血の両方を全面的に補う強力な処方で、全身の栄養状態を改善することで髪にも栄養を届けやすくします。体力が著しく低下している方、病後や手術後に抜け毛が増えた方、慢性的な疲労を伴う薄毛の方に用いられます。
10種類の生薬で構成されており、気を補う「四君子湯」と血を補う「四物湯」の両方の効果を兼ね備えています。富士堂漢方薬局でも漢方薬による薄毛治療について詳しく解説されています。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)――女性の薄毛に多く用いられる処方
当帰芍薬散は、血を補い血行を改善する作用があり、女性の薄毛対策として用いられることが多い処方です。貧血気味で冷え性、月経不順を伴う方に適しています。当帰・芍薬・川芎が血の巡りを改善し、頭皮への栄養供給を促進するとされています。
女性ホルモンのバランスと関連した抜け毛(産後や更年期など)にも処方されることがあります。むくみや水分代謝の改善作用もあり、水太りタイプの方にも向いています。
加味逍遙散(かみしょうようさん)――ストレス・ホルモンバランスの乱れに
ストレスや自律神経の乱れが薄毛の背景にある場合に用いられる処方です。イライラ、不眠、肩こり、ホットフラッシュなどの症状を伴う方に適しています。ストレスの漢方対策については以下の記事でも詳しくまとめています。



円形脱毛症のような、ストレスが強く関与するタイプの脱毛にも検討されることがあります。気の巡りを整え、肝の機能を正常化することで、体全体のバランスを取り戻す処方です。


八味地黄丸(はちみじおうがん)――加齢による薄毛に
八味地黄丸は、腎の機能を高める代表的な処方で、加齢に伴う髪の衰えに用いられます。足腰のだるさ、頻尿、冷えなどを伴う方に適しています。腎を温め、生命エネルギーを底上げすることで、髪の成長に必要な土台を整えます。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)――ストレスが強い方の薄毛に
精神的なストレスが強く、動悸や不眠を伴いながら抜け毛が進行している方に処方されることがある漢方薬です。竜骨(化石化した骨)と牡蛎(カキの殻)が精神を鎮め、自律神経のバランスを整える作用が期待されます。
髪の健康を支える養生法
漢方薬と合わせて、日々の生活で髪に良い習慣を取り入れることも大切です。
「血」を補う食材を意識する
漢方でいう血を補う食材として、黒ごま、黒豆、レバー、ほうれん草、ひじき、なつめなどが挙げられます。特に黒い食材(黒ごま・黒豆・黒きくらげなど)は腎を補い、髪に良いとされています。
頭皮のマッサージ
シャンプー時に指の腹で頭皮を優しくマッサージすることで、血行を促進し毛根への栄養供給を助けます。爪を立てると頭皮を傷つけるので、必ず指の腹を使いましょう。
十分な睡眠をとる
漢方では、夜間は体が修復と回復に集中する時間と考えます。睡眠不足は血の消耗につながり、髪に悪影響を及ぼしやすいとされています。できるだけ日付が変わる前に就寝する習慣を心がけましょう。
漢方薬を使う際の注意点
薄毛の漢方治療は長期間にわたることが多いため、定期的に体調の変化を確認しながら続けましょう。急激な脱毛や円形脱毛が見られる場合は、まず皮膚科を受診してください。
漢方薬は食前または食間(食後2時間)に白湯で飲むのが基本です。甘草を含む処方では偽アルドステロン症(むくみ・血圧上昇)、附子を含む処方では口のしびれなどの副作用が生じることがあります。体調に異変を感じたら服用を中止して医師に相談してください。
よくある質問
Q. 漢方薬で薄毛はどのくらいで改善しますか?
髪の毛のサイクル(成長期〜退行期〜休止期)は数ヶ月単位のため、漢方薬の効果が髪に現れるまでには3〜6ヶ月以上かかることが一般的です。気長に体質改善に取り組むことが大切です。
Q. AGA治療薬と漢方薬は併用できますか?
AGA治療薬(ミノキシジルやフィナステリドなど)と漢方薬の併用は可能な場合が多いとされていますが、必ず担当の医師に確認してから始めてください。
Q. 女性の薄毛にも漢方薬は使えますか?
漢方薬は女性の薄毛にも広く用いられています。特に当帰芍薬散や加味逍遙散は、女性特有の体質に合わせた処方として多くの実績があります。
Q. 漢方薬はどこで購入できますか?
ドラッグストアで市販品を購入するか、病院(皮膚科・漢方外来など)で処方してもらえます。日本東洋医学会の専門医検索で漢方に詳しい医師を探すことができます。
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参考情報: AGAメディカルケアクリニック|薄毛と漢方薬
参考情報: クラシエ漢方セラピー




