「風邪のひき始めには葛根湯」というイメージを持っている方は多いと思います。しかし、実は風邪の段階や体質によって最適な漢方薬はまったく異なります。体力がある人と体力がない人、ひき始めとこじらせた後では、使うべき漢方薬が変わるのです。
漢方医学では、風邪の進行を段階的に捉え、それぞれの段階に応じた処方を細かく使い分けます。適切なタイミングで適切な漢方薬を飲むことが、風邪を早く治すための鍵になります。逆に、タイミングを間違えると効果が出ないどころか、体調を悪化させてしまう可能性もあります。
漢方の基本的な考え方については以下の記事も参考になります。



漢方医学が考える風邪の進行段階
漢方では、風邪は外部から「邪気(じゃき)」が体に侵入することで発症すると考えます。邪気が体の浅い部分(体表)にとどまっているうちに対処できれば早く治りますが、体の奥に進むと治療が複雑になります。
初期段階(太陽病期)――ゾクッとした寒気を感じたとき
風邪の初期は、邪気がまだ体の表面にとどまっている段階です。ゾクゾクする悪寒、首や肩のこわばり、軽い頭痛、鼻水といった症状が特徴です。この段階で適切な漢方薬を飲めば、発汗を促して邪気を体の外に追い出し、短期間で回復できる可能性があります。
漢方では「汗の有無」が処方選びの重要なポイントになります。汗が出ていない場合と、じんわり汗をかいている場合では、使う漢方薬が異なります。
中期段階(少陽病期)――熱が上がったり下がったりするとき
風邪を2〜3日放置した結果、邪気が体のもう少し深い部分に進んだ段階です。熱が上がったり下がったりする、口が苦い、食欲がない、胸や脇腹が張るような感じがするといった症状が出ます。
後期段階(こじらせた風邪)――微熱が続く・咳や痰が残るとき
風邪をこじらせると、微熱がダラダラ続く、咳や痰がなかなか治まらない、体がだるい、食欲が戻らないといった状態になります。この段階では初期に使う発汗作用の強い漢方薬は不適切で、体力を回復させながら残った邪気を取り除く処方が必要になります。
風邪の段階別におすすめの漢方薬
風邪の漢方薬選びで最も重要なのは「タイミング」と「体力」です。ひき始めか、こじらせた後か。体力がある方か、虚弱な方か。この2軸で処方を判断します。迷ったら漢方に詳しい薬剤師に相談しましょう。
葛根湯(かっこんとう)――ひき始め・体力がある方の第一選択
葛根湯は、風邪のごく初期(ゾクッとした寒気を感じた直後)に飲むのが最も効果的な漢方薬です。悪寒がして、首や肩がこわばり、まだ汗をかいていない段階が適応です。葛根・麻黄・桂皮・芍薬・甘草・生姜・大棗の7種類の生薬で構成されています。
ポイントは「まだ汗が出ていない」こと。すでに汗をかいている場合は葛根湯ではなく桂枝湯が適しています。ときわ台クリニックでも葛根湯と他の風邪薬の使い分けについて詳しく解説されています。
また、葛根湯は麻黄を含むため、高血圧の方、心臓に持病がある方、高齢者は注意が必要です。頭痛の漢方対策については以下の記事も参考になります。



麻黄湯(まおうとう)――高熱・関節痛を伴う強い風邪に
インフルエンザのように高熱が出て、全身の関節が痛み、激しい悪寒がある場合に用いられます。葛根湯よりも発汗作用が強く、体力が充実している方に限定して使う処方です。
麻黄の含有量が多いため、動悸、不眠、胃もたれなどの副作用が出やすい点に注意が必要です。体力がない方や高齢者には不向きな漢方薬です。
桂枝湯(けいしとう)――体力がない方のひき始めに
桂枝湯は、すでにじんわり汗をかいている場合や、体力が低下している方の風邪のひき始めに適した処方です。葛根湯や麻黄湯のような強い発汗作用はなく、穏やかに体を温めて邪気を追い出します。
「葛根湯を飲んだら胃がもたれた」「体力が落ちていて強い薬は合わない」という方は、桂枝湯のほうが適している可能性があります。漢方薬の中でも最も基本的な処方とされ、「漢方の原点」とも呼ばれます。


麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)――発熱後に咳が出てきた段階に
風邪の初期症状が治まった後、咳が出始めた段階で使う処方です。口が渇く、黄色い痰が出る、咳き込むと汗が出るといった「熱」を伴う咳に適しています。気管支の炎症への進行を防ぐ効果も期待されます。
竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)――風邪をこじらせて長引いている場合に
風邪をこじらせて1週間以上経っても微熱や咳、痰が続いている場合に用いられます。体力が低下し、食欲がなく、倦怠感が強い状態に適しています。発汗作用のある薬ではなく、体の回復を助けながら残った邪気を取り除く処方です。
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)――風邪の中期・消化器症状を伴う場合に
風邪をひいてから数日経ち、熱が上がったり下がったりする、胃腸の調子が悪い、腹痛を伴うといった症状がある場合に用いられます。風邪の初期に適切な対応ができず、中途半端な状態で長引いている場合の選択肢です。
風邪を早く治すための養生法
漢方薬の効果を最大限に引き出すためには、日常の養生も重要です。
ひき始めはとにかく体を温める
風邪のひき始めに漢方薬を飲んだ後は、温かくして汗をかくのが鉄則です。葛根湯や麻黄湯を飲んだら、温かい布団にくるまって体を休めましょう。発汗することで邪気が体の外に出て、回復が早まるとされています。
消化のよい温かい食事をとる
おかゆ、うどん、温かいスープなど、胃腸に負担をかけない食事を心がけましょう。ネギ・生姜・大根は漢方的にも風邪に良いとされる食材です。冷たい飲食物は体を冷やして回復を遅らせるため避けてください。
しっかり睡眠をとる
睡眠は体の回復に不可欠です。風邪をひいたら無理をせず、できるだけ早く休むことが回復への近道です。
漢方薬を使う際の注意点
風邪の漢方薬は「タイミング」が命です。ひき始めに使う発汗作用の強い薬を、こじらせた後に飲むと体力をさらに消耗させる恐れがあります。症状の変化に応じて処方を切り替えることが大切です。
漢方薬は食前または食間(食後2時間)に白湯で服用するのが基本です。風邪のひき始めに使う漢方薬は、温かい白湯で溶かして飲むと効果が高まるとされています。
麻黄を含む処方(葛根湯・麻黄湯・麻杏甘石湯など)は、高血圧、心臓病、甲状腺機能亢進症の方には注意が必要です。体調に異変を感じたら服用を中止して医師に相談してください。
よくある質問
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Q. 風邪の漢方薬はどのくらいで効果が出ますか?
ひき始めに適切な漢方薬を飲めば、半日〜1日で症状の改善を感じることもあります。こじらせた場合は数日〜1週間程度かかることがあります。
Q. 葛根湯はいつ飲んでも効きますか?
葛根湯が最も効果を発揮するのは、ゾクっとした寒気を感じた直後の「ひき始め」です。すでに熱が上がりきった段階や、風邪をこじらせた後に飲んでも十分な効果は期待できません。
Q. 風邪薬(西洋薬)と漢方薬は一緒に飲めますか?
併用できる場合もありますが、成分が重複するリスクがあります。特に葛根湯や麻黄湯に含まれる麻黄は、一部の市販風邪薬に含まれるエフェドリンと同じ成分のため、重複摂取に注意が必要です。必ず薬剤師に確認してください。
Q. 漢方薬はどこで購入できますか?
ドラッグストアで市販品を購入するか、病院(内科・耳鼻咽喉科・漢方外来など)で処方してもらえます。日本東洋医学会の専門医検索で漢方に詳しい医師を探すことができます。
参考情報: クラシエ カンポフルライフ|麻黄湯の効果と葛根湯との使い分け
参考情報: ツムラ漢方薬一覧




