季節の変わり目になると風邪をひく、周りが元気なのに自分だけ体調を崩す、疲れがなかなか抜けない――そんな悩みを抱えている方は少なくありません。免疫力という言葉はよく耳にしますが、体の防御力を高めるためにはどうすればいいのか、なかなか具体的なイメージが湧きにくいものです。
漢方の考え方では、体の防御力を「衛気(えき)」と呼び、この衛気を強化することで外からの刺激に負けにくい体をつくることを目指します。免疫そのものを直接操作するのではなく、体全体のバランスを整えることで結果として防御力をサポートするのが漢方のアプローチです。
この記事では、免疫力が気になる方に向けて、よく用いられる漢方の特徴や日常に取り入れたい生活習慣をまとめました。

免疫力が気になる方に用いられる漢方の紹介
ここでは、風邪をひきやすい方や体力の低下が気になる方に用いられることが多い漢方をご紹介します。服用にあたっては必ず医師や薬剤師に相談してください。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
疲れやすく体力が落ちている方の定番とも言える漢方です。「気」を補い、消化機能を立て直すことで、体全体の活力をサポートするとされています。疲労感・食欲不振・だるさが続いている方に向いているとされており、感染症に対する応用についても研究が進められています。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
全身の虚弱が見られる方に用いられる漢方です。「気」と「血」の両方を補うことから、体力の消耗が著しい方や、病後・手術後の回復期にも処方されるケースがあります。名城大学の研究では、十全大補湯や補中益気湯に制御性T細胞を活性化する作用があることが報告されています。
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
貧血傾向や冷えをともなう免疫の低下が気になる方に用いられます。十全大補湯と構成が似ていますが、こちらは咳・息切れ・不眠といった症状にも対応した処方とされています。呼吸器が弱い方に選ばれるケースがあります。
黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)
虚弱体質で体力があまりない方に用いられます。小児の虚弱体質にも使われることがある処方で、お腹を温めて体の防御力をサポートするとされています。汗をかきやすく、体力に自信がない方に向いているとされています。
玉屏風散(ぎょくへいふうさん)
風邪をひきやすい方の予防的な処方として知られています。「衛気」を強化して体の表面を守る力をサポートするとされており、中国では古くから風邪の予防に用いられてきた処方です。黄耆・白朮・防風の3つの生薬で構成されています。
補中益気湯と十全大補湯は似た処方ですが、使い分けのポイントがあります。疲れやすく食欲がない(主に「気」が不足)場合は補中益気湯、疲れに加えて貧血傾向や顔色の悪さ(「気」と「血」の両方が不足)がある場合は十全大補湯が選ばれやすいとされています。
漢方で見る「免疫力」の考え方
漢方では「免疫力」という言葉は使いませんが、体の防御機能に相当する概念があります。
「衛気」――体を守るバリア
「衛気(えき)」は、体の表面を守るバリアのような存在とされています。この衛気が充実していると、外からの刺激(漢方では「外邪」と呼びます)に負けにくくなるとされています。玉屏風散や黄耆建中湯は、この衛気を強化するための処方です。
「気虚」――エネルギー不足の状態
「気」が不足すると体の防御力も落ちるとされています。過労や食事の偏り、睡眠不足などが「気虚」を招き、結果として風邪をひきやすくなると考えられています。補中益気湯はこの「気虚」に対する代表的な処方です。
「脾」と免疫の関係
漢方では「脾」が消化・吸収を司り、「気」や「血」をつくる源とされています。「脾」の機能が弱まると、十分なエネルギーがつくれず、体の防御力も低下するとされています。胃腸を整えることが免疫サポートの第一歩というのが、漢方の基本的な考え方です。

漢方と併せて取り入れたい生活習慣
バランスのよい食事を心がける
たんぱく質・ビタミンC・亜鉛は、体の防御機能をサポートするうえで重要な栄養素とされています。肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく質、柑橘類やブロッコリーなどのビタミンC、牡蠣やナッツ類などの亜鉛を意識して摂りましょう。
適度な運動を習慣にする
ウォーキングや軽いジョギングなどの中程度の運動は、体の防御機能をサポートするとされています。ただし、激しすぎる運動は逆に体に負担をかけるため、自分のペースで続けられる運動を選びましょう。
質のよい睡眠を確保する
睡眠中に体の修復や免疫に関わる働きが活発になるとされています。厚生労働省の健康情報サイトでも、十分な睡眠の重要性が紹介されています。7〜8時間の睡眠を目標にしましょう。
ストレスを溜めない工夫をする
慢性的なストレスは体の防御機能を低下させるとされています。趣味の時間を確保する、自然の中で過ごす、深呼吸をするなど、自分なりのリラックス法を見つけましょう。
体を冷やさない
漢方では体の冷えは「衛気」を弱める要因とされています。特に冬場は首・手首・足首をしっかり温め、冷たい飲食物の摂りすぎに注意しましょう。
頻繁に風邪をひく、感染症にかかりやすいという場合は、基礎疾患や免疫に関わる病気が隠れている可能性もあります。気になる症状がある場合は、まず医療機関を受診してください。漢方は体質に合わせたサポートとして活用するものです。
季節別の体調管理と漢方
免疫力が気になる方にとって、季節ごとの体調管理は重要です。漢方の考え方に基づいた季節別のケアをご紹介します。
春――花粉やアレルギーの季節
春は気温の変化が大きく、自律神経が乱れやすい時期です。「肝」の気のめぐりを整えることが大切とされています。規則正しい生活リズムを保ち、ストレスを溜めないようにしましょう。
夏――暑さと冷房による疲労
暑さによる体力消耗と冷房による冷えのダブルパンチで、体の防御力が低下しやすい時期です。冷たいものの摂りすぎに注意し、胃腸をいたわることが大切です。
秋――乾燥と気温低下
空気が乾燥し、粘膜のバリア機能が低下しやすくなります。十分な水分摂取と加湿器の活用で、乾燥対策を行いましょう。
冬――風邪やインフルエンザの季節
体を温め、「衛気」を充実させることが大切な季節です。漢方と併せて、手洗い・うがい・十分な睡眠などの基本的な感染対策も徹底しましょう。
漢方を選ぶときに知っておきたいこと
「弱っている人を支える」のが漢方の役割
免疫に関わる漢方は、「免疫力を劇的に上げる」というものではなく、弱っている体を下支えして、本来の防御機能を取り戻すことを目指すものです。体力が落ちている・胃腸が弱い・疲れが取れないといった状態の方が、漢方で体の機能を整えることで、結果として防御力が回復するという考え方です。
市販品でも始められる
補中益気湯や十全大補湯はドラッグストアでも購入できます。まずは市販品から試してみて、より本格的な対応を希望する場合は日本東洋医学会のサイトで漢方専門医を探すこともできます。
継続が大切
体質を整えるための漢方は、一般的に2〜3か月以上の継続が目安とされています。「飲んですぐに風邪をひかなくなる」というものではなく、コツコツと体の土台をつくっていくイメージです。

まとめ
免疫力が気になる方にとって、漢方は体全体のバランスを整えることで防御力をサポートするアプローチです。「衛気」を強化し、「気」や「血」を補うことで、風邪をひきにくい体質づくりを目指します。
補中益気湯や十全大補湯をはじめとする漢方は、それぞれ体質や状態によって向き不向きがあります。自分に合った処方を見つけるために、薬剤師や漢方専門医に相談することをおすすめします。漢方と日々の生活習慣を組み合わせて、体の土台をしっかり整えていきましょう。
参考:日本東洋医学会
参考:厚生労働省|健康
参考:名城大学|漢方薬と免疫力
免疫力が気になる方のセルフチェック
以下の項目に心当たりがある方は、体の防御力が低下しているサインかもしれません。
- 季節の変わり目に必ず体調を崩す
- 周りの人が元気なのに自分だけ風邪をひく
- 疲れが取れず、朝起きても体が重い
- 食欲がなく、胃腸の調子が悪い
- 傷や口内炎が治りにくい
- 冷え性で手足が常に冷たい
複数当てはまる場合は、生活習慣の見直しとともに漢方でのサポートも検討してみてはいかがでしょうか。漢方では「弱っている体を下支えして、本来の力を取り戻す」ことを大切にしています。まずは薬剤師や医師に相談してみてください。


