産後は育児の疲れや体調の変化が重なり、体調を崩しやすい時期です。「風邪をひいたけど薬を飲んでいいの?」「母乳への影響が心配」――授乳中のお母さんは薬の選択に慎重にならざるを得ません。漢方薬は比較的穏やかな作用のものが多いとされていますが、すべてが授乳中に問題なく使えるわけではありません。この記事では、授乳中に処方されることの多い漢方と、注意が必要な生薬について詳しくご紹介します。なお、授乳中の漢方は必ず医師・薬剤師に相談してから服用してください。
母乳への漢方薬の影響について
漢方薬の成分が母乳に移行するかどうかは、多くのお母さんが気になるポイントです。一般的に、漢方薬の多くは母乳への移行量が1%未満とされており、赤ちゃんへの実質的な影響は極めて低いと考えられています。ただし、一部の生薬には注意が必要なものもあるため、「漢方だから安全」と一括りにすることはできません。

授乳中に処方されることの多い漢方薬
葛根湯(かっこんとう)
風邪の初期症状に使われる代表的な漢方です。授乳中でも短期間の使用であれば問題ないとされるケースが多いです。また、乳腺炎の初期症状(乳房の張り・痛み・熱感)に対しても処方されることがあります。乳腺炎は授乳中のトラブルとして頻度が高く、葛根湯が選択されることが少なくありません。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
血の巡りを整える漢方で、産後の不調に処方されることがあります。産後に下半身の冷えやうっ血が気になる方に用いられるケースがあります。ただし、桃仁・牡丹皮を含むため、使用の可否は医師の判断に従ってください。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
産後の疲れや体力低下に対して用いられることの多い処方です。「気」を補うことで全身の活力を高めるはたらきが期待されています。食欲が落ちている、だるさが抜けないという産後のお母さんに処方されることがあります。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
気と血の両方を大きく補う漢方です。産後の疲労が強く、貧血気味で体力が落ちている方に用いられることがあります。補中益気湯よりもさらに体力の消耗が激しい場合に選択されるケースがあります。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
産後のむくみや冷えに対して処方されることのある漢方です。水分代謝を整え、血の巡りにはたらきかけるとされています。体力があまりなく、冷え・むくみが気になる方に向いています。
加味逍遙散(かみしょうようさん)
産後のイライラ・気分の落ち込み・不眠が気になる方に用いられることがあります。ホルモンバランスの変化による精神的な不安定さに対して処方されるケースがあります。ただし、牡丹皮を含むため、授乳中の使用については医師に確認してください。
- 授乳中の漢方は、医師・薬剤師に相談してから始めるのが鉄則です
- 短期間の服用か長期の服用かで注意点が異なる場合があります
- 市販の漢方を自己判断で購入・服用するのは控えましょう
- 赤ちゃんに普段と違う様子(下痢、発疹、不機嫌など)が見られたら、すぐに服用を中止して受診してください
授乳中に注意が必要な生薬
大黄(だいおう)
母乳を通じて赤ちゃんに下痢を引き起こす可能性がある生薬です。大黄を含む漢方(防風通聖散、大黄甘草湯、桃核承気湯など)は、授乳中は避けるか、使用する場合は一時的に授乳を中止するなどの対応が必要です。
麻黄(まおう)
麻黄に含まれるエフェドリンが母乳に移行する可能性があるとされています。赤ちゃんの興奮や不眠につながる恐れがあるため、麻黄を含む漢方(葛根湯を除く麻黄湯、小青竜湯など)の使用は慎重に判断する必要があります。
麦芽(ばくが)(多量使用時)
母乳の分泌を抑制する作用があるとされている生薬です。断乳を目指す場合には意図的に使われることもありますが、授乳を続けたい場合は注意が必要です。
センナ・アロエ
下剤成分が母乳に移行し、赤ちゃんの腸に影響する恐れがあるため、授乳中は使用を避けるのが一般的です。便秘が気になる場合は、大黄やセンナを含まない処方について医師に相談しましょう。
- 授乳中の漢方は必ず医師・薬剤師に相談してから服用してください
- 大黄を含む漢方は授乳中に避けるのが基本です
- 赤ちゃんに下痢・発疹・不機嫌などの変化が見られたら、すぐに服用を中止して受診してください
- おくすり手帳に漢方の情報も記録しておきましょう

授乳中に漢方を安全に使うためのポイント
医師に授乳中であることを必ず伝える
漢方を処方してもらう際は、授乳中であることを必ず伝えてください。授乳の状況(完全母乳か混合か)によっても判断が変わることがあります。
おくすり手帳を活用する
漢方薬もおくすり手帳に記録しておくと、薬剤師がチェックしてくれます。市販の漢方を購入する場合でも、手帳を見せて相談すると安心です。
赤ちゃんの様子を観察する
漢方を飲み始めたあとは、赤ちゃんの便の状態、機嫌、哺乳量などを普段以上に注意して観察してください。何か変化があれば、すぐに服用を中止して医療機関を受診してください。

産後のよくある不調と漢方の選び方
産後は育児の負担に加え、ホルモンバランスの急激な変化が起こるため、心身ともに不調を感じやすい時期です。授乳中でも使える漢方を知っておくと、選択肢が広がります。
産後の疲労・体力低下
出産による体力の消耗に加え、夜間の授乳で睡眠不足が重なります。補中益気湯や十全大補湯が体力回復のサポートとして処方されることがあります。食欲が落ちている方には補中益気湯が、貧血を伴う方には十全大補湯が向いているとされています。
産後の冷え・むくみ
産後は水分代謝が乱れやすく、冷えやむくみが気になる方が増えます。当帰芍薬散が冷え・むくみに対して処方されるケースがあります。
産後の気分の落ち込み・イライラ
いわゆる「マタニティブルー」や産後うつは、ホルモンバランスの変化や育児ストレスが原因とされています。軽度の気分の落ち込みやイライラに対しては、加味逍遙散や加味帰脾湯が用いられることがありますが、症状が強い場合は心療内科や精神科の受診も検討してください。
乳腺炎
授乳中に乳腺が詰まって炎症を起こす乳腺炎は、多くのお母さんが経験するトラブルです。初期症状(乳房の張り・軽い痛み)に対して葛根湯が処方されることがあります。ただし、発熱を伴う場合や症状がひどい場合は、すぐに医療機関を受診してください。

まとめ
授乳中でも使える漢方はありますが、大黄や麻黄など注意が必要な生薬を含む処方もあります。「漢方なら安全」と思い込まず、必ず医師・薬剤師に相談したうえで服用してください。葛根湯や補中益気湯など、授乳中に処方されることの多い漢方もありますので、体調が気になるときは一人で悩まず、かかりつけの医師に相談してみてください。赤ちゃんとお母さんの両方が健やかに過ごせることが何より大切です。産後は体力の消耗や育児ストレス、ホルモンバランスの変化など、複数の要因が重なって不調が出やすい時期です。漢方は体質全体を整えるアプローチのため、複合的な産後の不調に向いているとされています。
参考:日本東洋医学会


