東洋医学の診察法の中でも、とくに奥が深いのが「脈診(みゃくしん)」です。手首に指を当てるだけで体の状態を読み取るこの技術は、数千年の歴史を持つ東洋医学ならではの診断法です。
この記事では、脈診の基本的なやり方から、セルフチェックで分かること、プロの脈診との違いまで詳しく解説していきます。脈診は奥が深い分野ですが、基本的な考え方を知っておくだけで東洋医学への理解がグッと深まるはずです。
脈診(みゃくしん)とは

手首の脈から体の状態を読み取る診察法
脈診は東洋医学の四診(望診・聞診・問診・切診)のうち「切診(せっしん=触れて診る)」に含まれます。手首の内側にある橈骨動脈(とうこつどうみゃく)に指を当てて、脈の速さ・強さ・深さ・リズムなどから五臓六腑の状態を判断する方法です。
西洋医学の脈拍測定は主に心拍数やリズムの異常を見ますが、東洋医学の脈診はもっと幅広いです。脈の「質」を細かく分析して、気・血・水のバランスや臓腑の状態まで読み取ろうとするのが大きな違いです。

脈診の歴史
脈診の起源は古代中国にさかのぼります。東洋医学の古典として知られる『黄帝内経(こうていだいけい)』にはすでに脈診に関する記述があり、後に張仲景(ちょうちゅうけい)の『傷寒論(しょうかんろん)』や王叔和(おうしゅくか)の『脈経(みゃくきょう)』で体系化されました。日本にも古くから伝わり、現在でも漢方医や鍼灸師が日常的に用いています。
脈診の基本的なやり方

脈を診る場所「寸・関・尺」
脈診で指を当てるのは手首の内側です。「寸口(すんこう)」と呼ばれる橈骨動脈の拍動部に、人差し指・中指・薬指の3本を並べて当てるのが基本です。
- 寸(すん):人差し指が当たる部分(手首に最も近い)。心・肺の状態を反映するとされる
- 関(かん):中指が当たる部分(橈骨茎状突起のあたり)。脾・胃の状態を反映するとされる
- 尺(しゃく):薬指が当たる部分(最も肘に近い)。腎・膀胱の状態を反映するとされる
左右の手首で診る臓腑が異なるとされており、左手は心・肝・腎、右手は肺・脾・命門(腎陽)を反映するという考え方があります。
脈診の手順
- 静かな環境でリラックスした状態で座る
- 手首を心臓と同じ高さに置く
- 反対側の手の人差し指・中指・薬指を、手首の内側の拍動部に軽く当てる
- まず軽く触れて「浮脈」かどうかを確認
- 次に少し力を入れて押し、脈の強さや太さを感じる
- さらに深く押して「沈脈」かどうかを確認
- 3本の指それぞれで脈の違いがあるか感じ取る
文章だけだと指の当て方がイメージしづらい部分もあります。寸・関・尺の位置や脈の種類が図解された東洋医学の入門書を1冊手元に置いておくと、確認しながら練習しやすくなります。
脈診のタイミング
脈診は朝の安静時に行うのが理想的です。運動直後や食後、入浴後は脈が変化しているため正確な判断ができません。感情が激しく動いているときも避けた方がよいでしょう。東洋医学の古典では「平旦(へいたん=夜明け)」に脈を診るのが最も正確とされています。

代表的な脈の種類
浮脈(ふみゃく)と沈脈(ちんみゃく)
浮脈は軽く指を当てただけで脈が感じられるタイプです。体の表面に病邪がある(風邪のひきはじめなど)ときに現れやすいです。沈脈は深く押さないと脈が感じにくいタイプです。体の奥に不調がある場合や、慢性的な疲労がある人に見られることがあります。
数脈(さくみゃく)と遅脈(ちみゃく)
数脈は脈が速い状態(1分間に90回以上が目安)です。体に熱がこもっている「熱証」で見られやすいです。遅脈は脈が遅い状態(1分間に60回以下が目安)です。体が冷えている「寒証」で見られやすいです。
滑脈(かつみゃく)と渋脈(じゅうみゃく)
滑脈は脈がなめらかでコロコロと流れるように感じるタイプです。痰湿(たんしつ=体に余分な水分や老廃物が溜まっている状態)で見られやすいです。渋脈は脈の流れが渋い(スムーズでない)タイプです。瘀血(おけつ=血の巡りが悪い状態)や血虚で見られることがあります。
弦脈(げんみゃく)
琴の弦を触るようにピンと張った脈です。ストレスや気滞(気の巡りが悪い状態)で見られやすく、肝の不調と関連すると考えられています。イライラしやすい人や、緊張が強い人に見られることがあります。
虚脈(きょみゃく)と実脈(じつみゃく)
虚脈は脈の力が弱く、軽く押すと消えてしまうタイプです。気虚や血虚の人に多いです。実脈は脈に力があり、しっかりとした拍動を感じるタイプです。実証(邪気が盛んで体力がある状態)で見られやすいです。
セルフ脈診でチェックできること
プロの脈診との違い
正確な脈診は長年の訓練が必要で、熟練した漢方医や鍼灸師でないと正しい判断は難しいです。ただし、セルフ脈診でも以下のような基本的なチェックはできます。
- 脈が速いか遅いか(熱証 or 寒証の傾向)
- 脈が強いか弱いか(実証 or 虚証の傾向)
- 脈が浅いか深いか(体表の不調 or 体内の不調の傾向)
- いつもの脈と違うかどうか(体調変化のサイン)
セルフ脈診の活用法
大切なのは「診断する」ことではなく、自分の脈の「いつもの状態」を知っておくことです。普段の脈の感じが分かっていれば、体調が変化したときに「いつもと違う」と気づけるようになります。それだけでも健康管理の大きなヒントになります。
指の感覚だけだと自信が持てないうちは、1分間の脈拍だけ数値でも確かめておくと比べやすくなります。指先で脈拍を測れる機器を使って記録している人もいます。

脈診と体質の関係

気虚タイプの脈
脈が弱々しく、軽く押すだけで消えてしまうような虚脈になりやすいです。脈の回数も少なめ(遅脈傾向)のことが多いです。
血虚タイプの脈
脈が細く弱い「細脈(さいみゃく)」が特徴的です。脈の幅が狭く、糸のように細く感じられることがあります。
陰虚タイプの脈
脈が速く細い「数脈+細脈」の組み合わせが多いです。体の潤いが不足して熱が相対的に余っている状態を反映しています。
気滞タイプの脈
弦脈(ピンと張った脈)が特徴的です。ストレスが溜まっているときにこの脈が出やすいとされています。
瘀血タイプの脈
渋脈(流れが渋い脈)や、部分的に脈が途切れるような脈が見られることがあります。血の巡りが悪い状態を反映しているとされています。
脈診を受けられる場所
漢方専門クリニック
日本東洋医学会認定の漢方専門医がいるクリニックでは、舌診・脈診・腹診を含めた総合的な東洋医学の診察を受けられます。保険適用で漢方薬を処方してもらえるのもメリットです。
鍼灸院
鍼灸師も脈診を行うことが多いです。特に「経絡治療(けいらくちりょう)」を行う鍼灸院では、脈診を重視して施術方針を決めます。国家資格を持つ鍼灸師による施術なので安心して受けられます。
漢方薬局
漢方薬局でも脈診を行うことがあります。薬剤師が体質を見極めるために脈を診て、最適な漢方薬を提案してくれます。

セルフ脈診で気づいた体質の傾向をもとに、自分に合う漢方を薬剤師に相談できるサービスもあります。LINEで体質チェックをしてから薬剤師に無料で相談できるオンラインの漢方薬店の仕組みは、LINEで薬剤師に相談できるYOJOの詳細でまとめています。

よくある質問
Q. 脈診は左右どちらの手首で診るの?
基本的には両方の手首で診ます。左右で脈の強さや質に違いがあることがあり、左手は心・肝・腎、右手は肺・脾・命門の状態を反映するとされています。片方だけでなく両方を比較するのが基本です。
Q. セルフ脈診はどれくらい続ければ分かるようになる?
毎日続けて1〜2ヶ月ほどすると、「いつもと違う」という感覚が掴めてくる人が多いです。ただし、微妙な脈の違い(弦脈と滑脈の区別など)を正確に判断するには、専門的な訓練が必要になります。
Q. 脈診で病気が分かるの?
脈診は体質や体の状態の傾向を把握するためのもので、西洋医学的な病名を診断するものではありません。気になる症状がある場合は医療機関を受診しましょう。脈診はあくまで東洋医学的な体質把握のツールとして活用するのがよいでしょう。
Q. 自分で脈を診るとき、どの指で押さえるのがいい?
反対の手の人差し指・中指・薬指の3本を使います。親指には自分の脈があるので、親指で押さえると自分の脈と混同してしまいます。3本の指を軽く並べて手首に当てるのがコツです。
まとめ
脈診は東洋医学の中でもとくに奥深い診察法です。プロのように正確に脈を読み取るには長年の修練が必要ですが、セルフ脈診で「自分の脈のいつもの状態」を知っておくだけでも健康管理に役立ちます。
脈診に興味を持ったら、五反田SATO針灸院の脈診解説なども参考にしてみましょう。漢方クリニックや鍼灸院で実際に脈診を体験してみると、東洋医学の奥深さを実感できるはずです。
日本経済新聞の脈診コラムでも脈診の不思議について分かりやすく解説されているので、ぜひチェックしてみてください。





