「ステロイドを塗ると一時的に良くなるけれど、やめるとまた悪化する」「長期間の薬の使用に不安を感じる」「肌の状態が季節やストレスで大きく変動する」――アトピー性皮膚炎の悩みは、肌の表面だけでなく、日常生活の質にも大きく影響します。
漢方医学では、アトピー性皮膚炎を単なる皮膚の問題ではなく、体全体のバランスの乱れが肌に現れたものと捉えます。外用薬で表面の症状を抑えるだけでなく、体の内側から体質そのものを見直すことで、症状が落ち着きやすい体づくりを目指すのが漢方のアプローチです。
もちろん、漢方薬だけでアトピー性皮膚炎がすべて解決するわけではありません。皮膚科での標準治療(ステロイド外用薬・保湿剤など)と並行して、体質改善の一環として漢方薬を取り入れるのが現実的な方法です。自己判断でステロイドを中止することは悪化のリスクがあるため、必ず担当の医師に相談してください。

漢方医学が考えるアトピー性皮膚炎の体質タイプ
漢方では、アトピー性皮膚炎の背景にある体質をいくつかのタイプに分類して考えます。同じアトピーでも体質タイプによって適する漢方薬が異なるため、自分がどのタイプに近いかを知ることが処方選びの第一歩です。
湿熱(しつねつ)タイプ
赤みが強く、患部がジュクジュクと湿っている状態です。体内に余分な水分と熱がこもっていると考えます。夏場に悪化しやすく、汗をかくとかゆみが増すのが特徴です。食生活では脂っこいものや甘いものの摂りすぎが影響している場合もあります。
血熱(けつねつ)タイプ
皮膚の赤みやほてりが強く、かゆみが激しいタイプです。イライラしやすい、のぼせやすい、便秘がちといった症状を伴うことが多く、体力がある方に見られやすい傾向があります。
血虚(けっきょ)タイプ
皮膚が乾燥してカサカサし、粉をふくような状態です。血(栄養・潤い)が不足しているため、皮膚に十分な潤いが行き渡らないと考えます。冬場や乾燥する季節に悪化しやすく、冷え性や貧血を伴う方に多い傾向があります。
アトピーが気になる方に用いられる漢方薬
アトピー性皮膚炎の漢方治療は、症状の時期(急性期か慢性期か)と体質タイプの両方を考慮して処方を決めます。皮膚科での治療を続けながら、漢方に詳しい医師に相談するのが望ましい進め方です。
十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)――湿疹の初期・ジュクジュクした状態に
十味敗毒湯は、皮膚の炎症を鎮め、化膿を防ぐ作用がある処方で、湿潤型のアトピーに用いられることがあります。体力が中等度の方に適しており、ニキビや蕁麻疹など、アトピー以外の皮膚トラブルにも広く処方されます。
江戸時代の名医・華岡青洲が考案したとされる日本独自の処方で、荊芥(けいがい)・防風(ぼうふう)・柴胡(さいこ)・桜皮(おうひ)など10種類の生薬で構成されています。クラシエの漢方セラピーでも詳しい解説が紹介されています。
温清飲(うんせいいん)――乾燥してかゆみが強い慢性期に
温清飲は、血を補い潤いを与える「四物湯」と、熱を冷まし炎症を鎮める「黄連解毒湯」を合わせた処方です。慢性化したアトピーで皮膚が乾燥し、赤みとかゆみが続いている場合に用いられます。
皮膚科の漢方治療においても重要な位置づけの処方で、慢性期の皮膚苔癬化(皮膚が厚く硬くなった状態)に対して処方されることがあります。ニキビの漢方対策については以下の記事でも紹介しています。

消風散(しょうふうさん)――かゆみが激しい湿疹に
消風散は、かゆみが非常に強く、掻くと浸出液が出てジュクジュクする湿疹に適した処方です。「風(ふう)」を取り除き、「湿」を乾かす作用があり、分泌物が多いタイプの湿疹に向いています。
夏場に汗で悪化するアトピーや、広い範囲にかゆみが広がるケースにも処方されることがあります。体力が中等度以上の方に適しています。


当帰飲子(とうきいんし)――乾燥肌タイプ・高齢者の湿疹に
当帰飲子は、血虚(血の不足)による皮膚の乾燥とかゆみに適した処方です。体力が低下している方や高齢者の乾燥性湿疹に用いられることが多く、皮膚を内側から潤しながらかゆみを抑える作用が期待されます。
冬場に皮膚がカサカサして粉をふく、入浴後にかゆみが強くなるといった症状がある方に向いています。冷え性を伴う方にも適しています。
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)――赤み・ほてりが強いタイプに
赤みが強く、のぼせやほてりを伴うアトピーに処方されることがある漢方薬です。体の余分な熱を冷まし、炎症を鎮める作用があります。体力が比較的ある方向けの処方で、イライラしやすい、顔が赤くなりやすいといった症状を伴う方に適しています。
ただし、冷え性の方や胃腸が弱い方には合わない場合があるため、体質に応じた判断が必要です。
アトピーの体質改善に役立つ生活の養生法
漢方薬による体質改善を効果的に進めるためには、日々の生活習慣の見直しも重要です。
食事の見直し
漢方では、甘いもの・脂っこいもの・冷たいもの・辛いものの過剰摂取は体内に「湿」や「熱」を生みやすいと考えます。野菜・穀物・海藻・きのこ類を中心としたバランスのよい食事を心がけましょう。
スキンケアの基本
漢方薬で内側からケアしながら、外側からの保湿も欠かさないことが大切です。入浴後5分以内に保湿剤を塗ることで、皮膚の水分蒸発を防ぐ効果が高まるとされています。石けんやボディソープは低刺激のものを選びましょう。
ストレス管理
アトピー性皮膚炎はストレスで悪化しやすい疾患としても知られています。十分な睡眠、適度な運動、リラックスできる時間の確保を意識することが、症状の安定につながります。
漢方薬を使う際の注意点
アトピー性皮膚炎の漢方治療は長期にわたることが多いため、定期的に医師のチェックを受けながら続けましょう。自己判断でステロイドなどの標準治療を中止しないでください。
漢方薬の効果を最大限に引き出すためには、食前または食間(食後2時間)に白湯で服用するのが基本です。胃が弱い方は食後でも構いません。
漢方薬にも副作用はあります。甘草を含む処方では偽アルドステロン症(むくみ・血圧上昇)が、黄連解毒湯のような苦寒薬では胃腸障害が生じることがあります。体調に異変を感じたら服用を中止して医師に相談してください。
よくある質問
Q. アトピーの漢方薬はどのくらいで効果が出ますか?
急性のかゆみや湿疹は2〜4週間で変化を感じることもありますが、体質改善を目的とする場合は2〜3ヶ月以上の継続が一般的な目安です。長期的な視点で取り組むことが大切です。
Q. 漢方薬を飲めばステロイドをやめられますか?
漢方薬で体質が整ってくるとステロイドの使用量を減らせるケースもありますが、自己判断での中止はリバウンドのリスクがあります。必ず担当の皮膚科医と相談しながら段階的に調整してください。
Q. 子どものアトピーにも漢方薬は使えますか?
小児に使用できる漢方薬もありますが、大人とは体質や用量が異なります。小児科や漢方外来で相談のうえ、適切な処方と量を決めてもらうのが安全です。
Q. 漢方薬はどこで購入できますか?
ドラッグストアで市販品を購入するか、病院(皮膚科・漢方外来など)で処方してもらえます。日本東洋医学会の専門医検索で漢方に詳しい医師を探すことができます。
参考情報: クラシエ薬品|アトピー性皮膚炎の漢方治療
参考情報: 日本皮膚科学会|アトピー性皮膚炎Q&A




