出産という大仕事を終えた体は、想像以上に消耗しています。「とにかく疲れが取れない」「気分が沈む」「髪が抜ける」「むくみがひどい」。こうした産後の不調は多くの方が経験するものです。
西洋医学では産後うつや貧血など個別の症状に対して治療を行いますが、漢方では「産後の体を丸ごと立て直す」という考え方でアプローチします。体質に合った処方を選ぶことで、複数の不調を同時にケアできるのが漢方の魅力です。
この記事では、産後のケアにおすすめの漢方処方と、日常でできる養生のポイントを解説します。

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産後の不調を漢方ではどう考える?


「血虚」|出産で大量の血を失った状態
出産では多量の出血が伴います。東洋医学では、産後の女性は「血虚(けっきょ)」の状態にあると考えます。血虚になると、疲れやすい・めまい・顔色が悪い・髪が抜ける・肌が乾燥する・爪がもろくなるなどの症状が出やすくなります。
「気虚」|エネルギーの枯渇
出産と育児で体力が著しく消耗した状態が「気虚」です。倦怠感が強い、食欲がない、声が小さくなる、風邪をひきやすいなどの症状が現れます。慢性的な睡眠不足も気虚を悪化させる大きな要因です。
「気血両虚」|最も多い産後のパターン
産後は気と血の両方が不足する「気血両虚」の状態が非常に多く見られます。疲れと貧血感が同時に押し寄せ、心身ともに辛い状態です。
「瘀血」|悪露の排出不良
産後に悪露がスムーズに排出されないと「瘀血(おけつ)」の状態になることがあります。下腹部の痛み、腰痛、肌のくすみなどが現れます。
産後の不調は「血虚」「気虚」「気血両虚」「瘀血」のどれか、またはそれらの組み合わせで起きていることがほとんどです。自分がどのタイプに当てはまるかを知ることが、適切な処方選びの第一歩になります。
産後のケアにおすすめの漢方処方


当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
産後の漢方といえばまず名前が挙がる代表的な処方です。不足した血を補いながら全身の血行を促進し、体内の水分代謝も整えます。
以下のような症状がある方に向いています。
- 貧血気味で疲れやすい
- めまい・立ちくらみがある
- 足腰のむくみが気になる
- 冷え性で手足が冷たい
- 肩こりがつらい
加味逍遙散(かみしょうようさん)
産後のイライラや気分の落ち込み、不安感が強い方に向いている処方です。乱れた気の巡りを整え、体内にこもった余分な熱を冷ますことで精神的な高ぶりを鎮めます。
以下のような症状がある方に用いられます。
- イライラしやすい・怒りっぽくなった
- 不安感や気分の落ち込みがある
- 眠れない・寝つきが悪い
- のぼせやほてりがある
- 肩こりや頭痛を伴う


補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
産後の極度の疲労感に対して非常に頼りになる処方です。「漢方のユンケル」とも呼ばれ、気を補い、内臓の機能を立て直すことで全身の活力を取り戻していきます。
食欲がない、体がだるい、やる気が出ない、風邪をひきやすいなどの「気虚」が強い方に適しています。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
気と血の両方を同時に補う処方で、産後の「気血両虚」タイプの方に向いています。顔色が青白い、貧血傾向がある、全身の倦怠感が強い、食欲もない、という方に用いられます。
芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)
産後の瘀血を改善するための代表的な処方です。悪露の排出を促し、血の巡りを整えることで、下腹部の痛みや腰痛の緩和に用いられます。産後の全般的な回復にも活用されます。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
瘀血が強く、のぼせ・下腹部痛・肌荒れなどがある方に用いられる処方です。比較的体力がある方向けの処方のため、体力が極端に落ちている場合は他の処方が優先されます。
産後の養生|漢方と一緒にできるセルフケア


食事の養生
産後は「血を補う食材」を積極的に取り入れましょう。
- 黒い食材:黒豆、黒ごま、黒きくらげ、ひじきなど。東洋医学では黒い食材は「腎」を補い、生命力を回復させるとされる
- 赤い食材:なつめ、クコの実、レバー、赤身肉など。血を補う食材の代表格
- 温かいスープや汁物:体を温めながら栄養を摂れるため、産後の胃腸にやさしい
冷たい食べ物や飲み物は胃腸を冷やし、気血の生成を妨げるため控えましょう。
黒い食材・赤い食材のような東洋医学の食材の考え方を、家族の毎日のごはんにも活かせるよう基礎から学びたい方には、NPO法人日本統合医学協会の「養生薬膳資格取得講座」があります。体質・体調のチェック方法から季節の食材を使った家庭のおかずまでを、オンライン講座とテキストで自分のペースで学べる構成です。



休息と睡眠
産後は赤ちゃんのお世話でまとまった睡眠が取りにくくなりますが、「赤ちゃんが寝たら自分も寝る」を合言葉にして、細切れでもよいので休息を確保することが大切です。家族やサポートサービスの力を借りることもためらわないでください。
無理な運動は避ける
産後の体が回復するまで、激しい運動は控えましょう。ストレッチや軽い散歩から始め、体調を見ながら少しずつ運動量を増やしていくのが理想です。


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よくある質問(Q&A)
Q. 授乳中でも漢方薬を飲める?
当帰芍薬散や加味逍遙散など、授乳中でも使用できるとされる処方はあります。ただし、自己判断での服用は避け、医師や薬剤師に相談してから飲むようにしましょう。処方によっては授乳に影響する生薬が含まれていることもあります。
Q. 産後いつから漢方薬を飲み始められる?
産後すぐから飲み始められる処方もあります。特に芎帰調血飲は産後すぐの服用が想定された処方です。いつから始めるかは産後の経過や体調によるため、出産した医療機関や漢方外来で相談するのがおすすめです。
Q. 産後うつに漢方は使える?
産後の気分の落ち込みやイライラには、加味逍遙散や補中益気湯などの漢方薬が用いられることがあります。ただし、症状が重い場合は漢方薬だけで対応するのではなく、産婦人科や心療内科での専門的な治療と併用することが大切です。
Q. 産後の抜け毛に漢方は使える?
産後の抜け毛は「血虚」が関係していることが多いです。当帰芍薬散や十全大補湯など、血を補う処方で体質を整えることが、髪の回復を後押しすると考えられています。ただし、抜け毛は産後6か月〜1年程度で自然に落ち着くことも多いため、焦りすぎないことも大切です。
まとめ
産後の不調は、東洋医学的には「気」と「血」の不足や「瘀血」が原因と考えられます。当帰芍薬散・加味逍遙散・補中益気湯・十全大補湯など、体質に合った漢方処方を選ぶことで、複数の不調を同時にケアできるのが漢方の強みです。
漢方薬と合わせて、黒い食材や赤い食材を取り入れた食事、十分な休息、無理のない生活を心がけましょう。産後のケアは自分一人で頑張らず、家族や専門家の力を借りながら進めていくことが大切です。
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Q. 産後に漢方薬局と病院、どちらに行くべき?
産後1か月健診までは出産した医療機関でのフォローが優先です。その後、漢方を取り入れたい場合は、漢方外来のある産婦人科や内科、または漢方薬局に相談するとよいでしょう。保険適用で処方してもらいたい場合は医療機関の受診がおすすめです。
Q. 複数の不調がある場合、漢方薬は何種類も飲むの?
漢方は一つの処方で複数の症状に対応できることが多いのが特徴です。たとえば当帰芍薬散は、貧血・冷え・むくみ・めまいなど複数の症状に同時にアプローチできます。必ずしも症状ごとに薬を増やす必要はありません。
産後のタイプ別おすすめ漢方まとめ
産後の不調はタイプによって適した処方が異なります。以下に主なタイプと対応する処方をまとめました。
疲れ・だるさが中心のタイプ(気虚)
→ 補中益気湯が第一選択。食欲不振も伴う場合は六君子湯も候補になります。気を補い、胃腸の機能を立て直すことで全身の活力を回復させます。
貧血・冷え・むくみが中心のタイプ(血虚+水滞)
→ 当帰芍薬散が適しています。血を補い、水分代謝を整えることで、産後の冷えやむくみ、めまいに幅広く対応します。
イライラ・不安・不眠が中心のタイプ(肝鬱気滞)
→ 加味逍遙散がおすすめです。気の巡りを整え、精神的な高ぶりを穏やかに鎮めます。のぼせやほてりを伴う方に特に向いています。
全身の消耗が著しいタイプ(気血両虚)
→ 十全大補湯で気と血の両方を同時に補います。産後の回復が遅い、顔色が青白い、髪や肌にツヤがないなどの方に適しています。
悪露の排出が悪い・下腹部痛があるタイプ(瘀血)
→ 芎帰調血飲や桂枝茯苓丸で血の巡りを改善します。産後の回復を促し、腹痛や腰痛を和らげます。


産後の漢方ケアは、「一人で頑張りすぎない」ことも大事な養生です。体が回復するまでには時間がかかります。焦らず、少しずつ元気を取り戻していきましょう。
Q. 産後何か月まで「産後の漢方」を飲むべき?
明確な期限はありませんが、産後の体が回復するまでの目安は一般的に6か月〜1年程度です。症状が落ち着いてきたら、漢方医と相談しながら徐々に減量・中止を検討します。体調が安定するまでは焦らず続けるのがポイントです。
Q. 産後の漢方は保険適用で処方してもらえる?
当帰芍薬散、加味逍遙散、補中益気湯、十全大補湯などはいずれも保険適用の漢方薬です。産婦人科や漢方外来で症状を伝えれば、保険適用で処方してもらえます。費用面が心配な方は、まず医療機関で相談してみましょう。
参考:フロル漢方内科クリニック|産後の不調 東西薬局|産後と漢方薬 西漢方薬店|産後うつのおすすめ漢方
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